
発端:リング上で生まれた対立構造
両者の因縁は、2025 年 7 月に開催された「超 RIZIN.4」のリング上で始まった。赤田功輝に勝利した秋元強真が、マイクで萩原京平を名指しで挑発したのだ。
「いつまでも(朝倉)未来さんに執着してる萩原(京平)選手」
この言葉に反応した萩原がリングに上がると、両者の間で激しい口論が展開された。秋元が「ザコ!」と挑発すれば、萩原は「お前生意気やな。お前にムカついてんねん!逃げんなよ!」と応戦し、会場は大きな歓声に包まれた。
この対立は、後日行われた対戦発表会見でも続いた。フェイスオフではスタッフが間に入るほど緊迫した雰囲気に包まれ、この一戦が単なる試合以上の意味を持つことをうかがわせた。結果として、このカードは神戸大会のメインイベントとして組まれることになった。
この対立の背景には、両者の立場が関係している。秋元が所属する JAPAN TOP TEAM は、かつて萩原が対戦し敗れた朝倉未来が率いるジムである。秋元の挑発は、萩原と朝倉の過去の対戦を踏まえた上で、世代交代をアピールする戦略的な意図があったと考えられる。
これにより、この試合は単なる若手と中堅の対決というだけでなく、JAPAN TOP TEAM の新世代が RIZIN のスター選手に挑むという構図、そして萩原が過去の敗戦を乗り越え、自身の進化を証明できるかという、多層的なテーマを持つ一戦となった。
新星・秋元強真の現在地:敗北から得た課題
秋元強真は、2006 年生まれの若手ファイターだ。朝倉兄弟に憧れて格闘技を始め、アマチュアで 4 戦全勝の戦績を残した後、2022 年にプロデビュー。得意の左ストレートを武器に DEEP で勝利を重ね、無敗のまま RIZIN の舞台に上がった。
しかし、2024 年の大晦日、元谷友貴との RIZIN バンタム級次期挑戦者決定戦で、プロ初黒星を喫する。試合は、元谷の巧みなグラップリングによって秋元が終始コントロールされる展開となり、0-3 の判定負けだった。秋元は得意の打撃を封じられ、自身の持ち味を発揮できないまま試合を終えた。
試合後のインタビューで、秋元はコンディションに問題はなかったと述べ、「元谷選手が想像よりも上手かった」と相手の実力を素直に認めた。そして、「気持ちが折れたわけではない」と語り、すぐに練習を再開する意向を示した。
この元谷戦での敗北は、秋元にとって重要な経験となった。トップレベルのグラップラーを相手にした際の課題が明確になり、その後の成長の糧となったことは想像に難くない。国内トップクラスの練習環境である JAPAN TOP TEAM でこの課題に取り組んできたからこそ、今回の萩原戦への自信につながっているのだろう。朝倉未来からも直接アドバイスを受けている。元谷戦を経て、秋元は単なるストライカーから、より総合的な MMA ファイターへと進化している可能性が高い。
再起を懸ける萩原京平:東京で取り組む弱点克服
「アンダーグラウンドエンペラー」の異名を持つ萩原京平は、地下格闘技から RIZIN のスターダムへと駆け上がったファイターだ。そのアグレッシブな打撃スタイルとスター性で多くのファンを魅了し、平本蓮との一戦などで大きな注目を集めた。
一方で、彼のキャリアは常にグラップリングという課題と隣り合わせだった。朝倉未来戦や鈴木千裕戦など、重要な局面で寝技に持ち込まれて敗れるケースが少なくなかった。打撃ではトップレベルの実力を持ちながらも、グラウンドの展開が弱点と見なされてきた。
その課題を克服するため、萩原は大きな決断を下す。拠点を大阪から東京へ移し、長南亮が主宰する「TRIBE TOKYO MMA」に所属を移したのだ。そこには若松佑弥や佐藤将光といった世界レベルの選手たちが集まっており、弱点強化には最適な環境と言える。
この環境の変化は、彼の精神面にも影響を与えている。萩原は現在の心境を「穏やかな気持ち」と表現し、「やれることは全部やってきた」という自信をのぞかせている。また、セコンドに付く長南代表に対して「毎日の練習を一番近くで見てくれている安心感があるし、的確なアドバイスをもらえるのが大きい」と全幅の信頼を寄せている。
萩原の東京移籍は、単に練習場所を変えたということ以上の意味を持つ。これまでのスタイルに固執せず、純粋に強さを求めて弱点と向き合うという姿勢の表れだ。今回の秋元戦は、その取り組みの成果が問われる最初の試合となる。ここで進化した姿を見せることができれば、彼のキャリアは新たなステージに進むことになるだろう。
| 指標 | 萩原 京平 (Kyohei Hagiwara) | 秋元 強真 (Kyoma Akimoto) | 
|---|---|---|
| 通称 | アンダーグラウンドエンペラー | 超新星 | 
| 生年月日 | 1995 年 12 月 28 日 | 2006 年 3 月 8 日 | 
| 出身地 | 大阪府 | 千葉県 | 
| 身長 | 178cm | 177cm | 
| リーチ | 180.5cm | 177.5cm | 
| 階級 | フェザー級 | フェザー級 | 
| 所属 | SMOKER GYM / TRIBE TOKYO MMA | JAPAN TOP TEAM | 
| 戦績(ソース時点) | 9 勝 10 敗 | 9 勝 1 敗 | 
| バックボーン | キックボクシング | MMA / ボクシング | 
試合の展望:打撃戦の先にある勝負の鍵
試合展開は、スタンドでの打撃の攻防が中心になると予想される。パワーのある打撃が持ち味の萩原に対し、秋元はサウスポーから繰り出すシャープな左ストレートとカウンターを得意とする。
しかし、勝敗を分けるポイントは、打撃から組みへと移行する局面の攻防になるだろう。両者がこの 1 年でどれだけ総合力を高めてきたかが、ここで明らかになる。
秋元としては、元谷戦の教訓を活かし、打撃を有効に使いながら組みの展開を狙うことが考えられる。彼自身が「熱くならず冷静に行けば問題ない」と語っているように、感情的な打ち合いを避け、戦略的に試合をコントロールしたいはずだ。
一方の萩原は、まさに練習の成果が問われる。秋元のタックルや組み際に的確に対処し、試合を自身の得意な打撃の間合いで進められるかが鍵となる。彼が語る「全局面で圧倒する」という言葉を実現するためには、向上したテイクダウンディフェンスを見せる必要がある。スタンドでも、TRIBE で磨いた技術を活かし、冷静にフィニッシュの機会を狙いたいところだ。
また、この試合は心理戦の側面も大きい。秋元陣営のトラッシュトークは、萩原を冷静な状態から引き離すための駆け引きとも取れる。萩原が挑発に乗らず、東京で培った落ち着きを保てるかどうかも、試合展開に影響を与えるだろう。
秋元が萩原の弱点を突くのか、それとも萩原が進化した姿を見せるのか。パンチの威力やタックルの速さだけでなく、試合全体をコントロールする能力と精神的な安定性が、勝敗を左右する重要な要素となる。
結論:両者のキャリアを左右する一戦
RIZIN LANDMARK 12 in KOBE のメインイベントは、両者の今後のキャリアにとって重要な意味を持つ一戦だ。この試合の結果は、RIZIN フェザー級の勢力図にも影響を与える可能性がある。
萩原京平にとって、この試合は自らの選択の正しさを証明する場となる。地元を離れ、東京で弱点克服に取り組んできた成果を示す絶好の機会だ。勝利すれば、彼はトップコンテンダーとしての地位を確固たるものにするだろう。しかし、もし同じ形で敗れるようなことがあれば、キャリアは厳しい局面を迎えることになる。
秋元強真にとっては、さらなる飛躍のきっかけとなる試合だ。萩原という知名度の高い選手に勝利すれば、そのインパクトは大きい。初黒星からの完全復活をアピールし、一気にフェザー級のトップ戦線に名乗りを上げることができる。現在のフェザー級には王者ラジャブアリ・シェイドゥラエフを筆頭に、クレベル・コイケ、朝倉未来といった実力者が揃っており、そこに割って入るチャンスとなる。
この試合は、打撃を得意としながらも、グラップリングという課題に直面した二人のファイターが、その克服の成果をぶつけ合うという点で興味深い。一人はキャリアの再起を懸け、もう一人はトップへの道を切り開くために。異なる立場の二人が、神戸のリングでそれぞれの進化を懸けて対戦する。
どちらがより課題と向き合い、成長した姿を見せられるのか。その答えは、ケージの中での攻防によってのみ示される。神戸の夜、両者のこれまでの取り組みが試される、重要な試合となるだろう。